2024.07.05 中国ビジネスサポート

【中国法務】中国事業からの撤退シリーズ①:撤退の方法

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【中国法務】中国事業からの撤退シリーズ①:撤退の方法

近時、中国事業からの撤退に関するご相談を頂くことが多くなっています。その背景としては、中国市場の変化、人件費の高騰、人民元高、外資優遇措置の廃止、環境規制の強化等、様々な要因があります。ただ、ここ2年間に限りますと、新型コロナウィルスによる経済活動の停滞が引き金となって、撤退を決断される企業が多いように思われます。

今回は、中国現地法人(外商投資企業)を設立している場合の撤退の方法として、主に、1.持分譲渡と、2.解散・清算がありますので、これらについてのメリット・デメリットをご説明するとともに、その他の方法についても簡単にご紹介致します。

1.持分譲渡

中国現地法人の持分を単純に譲渡する方法です。

持分譲渡は、解散・清算に比べて次のようなメリットがあるため、撤退の手段として、まずは持分譲渡ができないかを検討することが一般的です。他方で、持分譲渡は買手候補がいることが前提となりますので、それに伴うデメリットがあることも念頭に置いておく必要があります。

<持分譲渡のメリット>

① 会社自体は存続し、基本的にはこれまでどおりの営業が継続されるため、政府当局は協力的な対応をしてくれることが一般的です。

② 譲渡前にデューデリジェンスを行って問題点を探す等の手続が必要な場合もありますが、売手と買手が条件を合意(持分譲渡契約を締結)しさえすればよいため、解散・清算と比較すると、費用が低廉・手続が簡易・所要時間が短いと言えます。

③ 解散・清算の場合には、従業員が解雇されることになりますが、持分譲渡であれば、基本的には従業員は継続的に雇用されるため、労務紛争のリスクが低いと言えます。

④ 法人格や会社の債権債務が存続し、出資者の信用や他の事業への影響が少ないため、既存出資者の同意が得られやすいという側面もあります。

<持分譲渡のデメリット>

① 買手候補をタイミングよく見つけることが難しく、見つかったとしても、条件等の面で破談となることも多いと言えます。

② 買手にバーゲニングパワーがあり、不利な対価、条件を受け入れざるを得ないこともあります。

③ 上記②にも関連しますが、補償責任、技術支援等の継続、商標の使用等の要求がなされることも多いです。

合弁会社であれば、中国側の合弁パートナーに持分譲渡するといった対応が可能ですが、そうでない場合には、買手を探さなくてはならないため、一般的には相応のハードルがあると考えられます。

なお、解散・清算を行うための時間とコストを考慮して、中国人従業員に廉価で持分譲渡を行ったケースもありました。後述するとおり、解散・清算は法的手続が煩雑であることから、廉価での持分譲渡を行うことには合理性があると思います。ただし、解散・清算を行えば戻ってくるであろう残余財産を大きく下回る価格での持分譲渡は、経営責任等の問題もありますので、通常あまり行われません。

2.解散・清算

中国現地法人に法令又は定款所定の解散事由が発生した場合に、出資者会による解散決議を行い、当該決議で指名された清算委員会(清算組)による清算手続を経て、法人格を抹消する方法です。

解散・清算には次のようなメリットがあることから、持分譲渡の次に検討されることが多いですが、手続の煩雑性等に伴うデメリットもあります。

<解散・清算のメリット>

① 事業規模が小さく、従業員も少ない場合、清算手続において財産換価等を行い、効率的に会社登記の抹消まで完了することが可能です。

② 昨年、出資者の責任承諾の下で清算手続を経ずに抹消登記を行うことができる簡易登記抹消制度(「市場主体登記管理条例」32条)が導入されました。

解散・清算のデメリット>

① 清算手続の途中で資金が底をついてしまうことが予想される場合には、出資者からの追加資金(増資、親子ローン)が必要となる場合があります。

② 解散・清算してしまうと、税収が下がる・その地域の雇用が守られない等の問題が生じるため、政府当局が協力的でない場合があります。

③ 解散・清算に係る法的手続は煩雑であり、少なくとも半年くらいの期間を要します(会社の規模により期間は大きく異なります)。また、法的手続を専門家に業務委託する際の費用も相応に発生することになります。

④ 従業員の整理解雇が必要となるため、労務紛争のリスクが高いと言えます。特に、解雇の際には、従業員に対して経済補償金を支払うことになりますが、法定された金額よりも多額の経済補償金を要求されるケースが多いです。

⑤ 解散・清算が完了していしまうと、その後に、税務当局が追徴を行う等の手段が採れなくなるため、税務調査・税関調査が通常よりも厳しく行われる傾向にあります。そのため、過去の申告に問題がある場合には、非常に時間がかかったり、追徴課税等を受けたりするリスクがあります。

⑥ 中国の事業を停止することになりますので、場合によっては、親会社やグループ内の他の事業の信用に影響するリスクもあると考えらえます。

このように、「持分譲渡」と「解散・清算」は、メリット・デメリットが表裏一体の関係にあるため、状況に応じてどちらを選択するのが良いか検討する必要があります。

3.その他の方法

厳密な意味での中国事業からの撤退は、上記「1.持分譲渡」か「2.解散・清算」のいずれかになりますが、理論的には以下のような対応を採ることも可能です。

(1)事業譲渡

中国現地法人の資産、債権債務、契約関係等を一括して第三者に譲渡する方法です。

中国法上、事業譲渡の手続について特段の規定はありません。①手続が煩瑣であることや、②事業譲渡を行ったとしても中国現地法人自体は残ってしまう(いずれは解散・清算させる必要が生じる)ことから、撤退の方法としては一般的ではありません。

ただし、中国現地法人の行っていた営業を第三者に継続してもらうことで、取引先(商品等の供給先)に迷惑をかけないで済むというメリットもあります。

(2)減資

中国現地法人の登録資本金を減少する方法です。

外商投資法の下では、減資を制限する条項はなく、ネガティブリスト外の企業については商務主管部門の許可・届出が不要であるため、市場監督局で直接減資を申請ができるようになりました。但し、実務上、前提として減資により対象会社の債務弁済に影響が生じないことが当局から要求される例もあります。

なお、中国現地法人に相応のキャッシュがあれば、減資を行うことによって投資金額の回収を図ることができるというメリットがあります。ただし、事業が立ち行かなくなったために撤退を検討されるという場面が多いと思いますので、相応のキャッシュが残っているケースは少ないと言えます。

また、中国現地法人自体は残ってしまう(いずれは解散・清算させる必要が生じる)ため、法人格を残しておきたいという事情がない限り、初めから「解散・清算」を選択する方がベターであると思われます。

(3)買取請求権の行使

次の①~③の出資者会決議が行われた場合、当該決議に反対した出資者は、持分を合理的な価格で買い取るよう会社に請求することができます(会社法74条1項)。

① 5年間利益を計上し、利益分配条件を満たしているにもかかわらず、利益分配しない場合

② 合併、分割又は主たる財産の譲渡を行う場合

③ 経営期間が満了し、又は解散事由が発生したにもかかわらず、定款を変更して会社を存続させる場合

出資者会決議日から60日内に出資者が会社と合意できない場合、出資者は、出資者会決議日から90日内に人民法院(裁判所)に対し訴えを提起することができます(会社法74条2項)。

「買取請求権の行使」については、そもそもマイナー出資であることと、上記いずれかの場合に該当することが前提となりますので、使える場面はかなり限定されますが、要件を満たす場合には、それなりに効果がある方法であると思われます。

(4)破産

期限到来債務を弁済することができず、かつ、資産が全債務を弁済するのに足りない場合、又は明らかに弁済能力を欠く場合に、人民法院(裁判所)への申立てによる破産手続を経て、法人格を抹消する方法です(「企業破産法」7条)。要するに、破産の場合には、日本の親会社が傾いた中国現地法人を支援することなく、裁判所による手続で強制的に法人格を抹消してしまうことになります。

日系企業の場合には、日本の親会社及びその取引先が、お互いに中国現地法人を設立し、中国でも取引を行っているというケースが多く、破産によって中国で取引先に損害を与えてしまうと、日本の親会社及びグループ会社のレピュテーションリスクを生じさせる可能性が非常に高く、この点が、破産の一番の問題となります。

したがって、実務上、中国現地法人が破産を選択する例は少なく、破産原因がある場合でも出資者による追加資金の投入により破産原因を解消した上で解散・清算手続を選択することが一般的です。

(5)休眠化

自然災害、事故災難、公共衛生事件、社会安全事件等の原因で経営上の困難が生じた場合、企業は自主的に3年を超えない範囲で一定期間内休業を決定することができます(「市場主体登記管理条例」30条1項、4項)。

休眠化は、昨年から行えるようになった方法ですので、実務的に選択されている例は少ないと思われます。また、休業期間は3年が限度とされていることから、一時的な応急処置として利用されるのみとなります。

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