【中国法務】中国事業からの撤退シリーズ②:経済補償金
前回のコラムでは、中国事業からの撤退方法についてご紹介しましたが、その中で、解散・清算をする際に従業員の整理解雇を行う必要があり、経済補償金を支払う必要があることをコメントしました。今回は、従業員を解雇する場合に支払うことになる経済補償金はどのように計算されるかについて説明致します。
1.経済補償金の計算方法
労働契約法第47条によれば、経済補償金は以下のように計算する旨が規定されています。
① 勤続年数が1年となるごとに1ヶ月分の給与を支払う。 ② 6ヶ月以上1年未満である場合には1ヶ月分の給与を支払い、6ヵ月未満である場合には半月分の給与を支払う。 ③ 労働者の賃金月額が、会社が所在する地域の前年度の従業員の平均賃金の3倍を上回る場合には、3倍を限度として経済補償金の計算を行う。 ④ 勤続年数が12年を超える場合には、12年までで経済補償金の計算を行う。 ⑤ 賃金月額とは、労働者が雇用契約を解除し、又は終了する前12ヶ月間の平均賃金をいう。 |
2.数値例
上記1.のルールをもとに、以下3つのパターンで経済補償金がどのように計算されるかについて検討します。
【パターン①】 勤続年数:5年10ヵ月 解雇する従業員の平均賃金:12,000元 会社が所在する地域の前年度の平均賃金:5,000元 |
経済補償金計算の基準となる平均賃金:5,000元×3=15,000元>12,000元⇒12,000元
経済補償金計算の基準となる勤続年数:5年10ヵ月⇒6ヶ月分
経済補償金:12,000元×6ヶ月=72,000元
【パターン②】 勤続年数:8年3ヵ月 解雇する従業員の平均賃金:30,000元 会社が所在する地域の前年度の平均賃金:7,000元 |
経済補償金計算の基準となる平均賃金:7,000元×3=21,000元>30,000元⇒21,000元
経済補償金計算の基準となる勤続年数:8年3ヵ月⇒8.5ヶ月分
経済補償金:21,000元×8.5ヶ月=178,500元
【パターン③】 勤続年数:14年8ヵ月 解雇する従業員の平均賃金:16,000元 会社が所在する地域の前年度の平均賃金:6,000元 |
経済補償金計算の基準となる平均賃金:6,000元×3=18,000元>16,000元⇒16,000元
経済補償金計算の基準となる勤続年数:14年8ヵ月⇒12ヶ月分
経済補償金:16,000元×12ヶ月=192,000元
3.企業所得税
労働者に経済補償金を支払う場合、上記1.2.に記載の計算方法にしたがって算出された金額までであれば、支給側である企業の損金算入が認められますが、それを超える場合については損金算入が認められません。
4.個人所得税
受領した個人に対する個人所得税課税は以下のようなルールで行われることになります。
① 会社が所在する地域の前年度の従業員の平均賃金の3倍以内の部分:免税 ② 会社が所在する地域の前年度の従業員の平均賃金の3倍を超える部分: 総合課税の対象とはせずに、別途3倍を超える部分についてのみ総合課税の税率表に従って個人所得税を計算 |
5.その他留意点
勤続年数が1年となるごとに月額給与の1ヶ月分が経済補償金として支給されるというのが基本的なルールになります。しかし、これはあくまでも労働者が受領することができる最低金額であって、これよりも高額な経済補償金を支給したとしても問題はありません(場合によっては企業所得税・個人所得税の負担は増えることになりますが)。
一般に、日系企業が現地から撤退する際には、法定された経済補償金の支払いのみで決着するケースは少なく、ある程度の金額を加算して支給することが多いです。ですので、整理解雇を行う場合には、その点も考慮して資金手当てをしておく必要があります。
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